2016年8月12日金曜日

魔法の言葉/怒涛のビジネススキル編その12



魔法の言葉
~魔法の言葉を使い倒せ!~


人生を豊かにする魔法の言葉、というのがあるそうだ。それは「ありがとう」と「ごめんなさい」。
日常的に当たり前によく使う言葉であるが、親しくなればなるほど、また立場や地位などで使いづらくなることがあるのだ。

例えば家族。近すぎるため、恥ずかしかったり、当然分かってくれていると思い込んでいたりして、なかなか言葉にできないことも多い。また上司が部下に対して、というのも、立場が邪魔をして素直になかなか言えないこともあるのだろう。

先輩のTさんはこの二つの言葉を多用していた。話しかける時は必ず「ごめん、〇〇さん」から入る。謝っているわけではない。枕詞のようなものなのだ。
「ごめん、ごめん、〇〇さん」と繰り返すこともあれば、「ごめん、〇〇さん、ごめん」と名前を挟むバージョンもある。会話が始まるとそれに「ありがとう」が加わる。「ありがとう」と言うより「ありがと」である。

 「ごめん、ごめん、〇〇さん、こないだの件なんだけど」
 「そうそう、ありがとありがと」
 「そうなんだよ。ごめんごめん。それでいつまでにできるかな」
 「助かるよ。ごめんごめん。ありがとありがと」
 「ごめんごめん、じゃあお願いね。ありがとありがとありがとごめん」
こんな調子である。
注意して聞いていると、会話の半分くらいが「ごめん」と「ありがと」で構成されている。本来謝罪と感謝を表す言葉であるにも拘らず会話の中での、えー、とか、あー、とか、そのー、というような言葉の代わりに使っているのである。なので、Tさんの会話は軽いし、人物も軽く見られがちである。
ところがである。Tさんは人気があるのだ。誰もが気持ちよくサポートしたい、と思わせる人で敵がいないのである。やはり魔法の言葉の威力であろうか。

一方、逆にこの二つの言葉が苦手な人もいる。
考えてみれば日本の昔の亭主関白の親父は、家庭では感謝や謝罪の言葉は発しないものだった。奥さんに「ありがとう」や「ごめんなさい」を一度も言わないまま生涯を終えた人もいたのではないか。日本男児には、そんなことは言わなくても分かる、言うのは男が廃る、という考えがDNA的にあったのかもしれない。
私の祖父の時代には「日本男児は軽々しく笑ってはならない」というような風潮があったそうだ。「武士は三年に片頬だけ笑う」という言葉もあったくらいだ。三年に片頬なら両頬笑うのに六年かかる。当時の平均寿命から言えば一生のうちに10回も笑わないことになる。そんな人が、奥さんにありがとうやごめんなさいを言うはずもない。

 昔の上司でやはりこの二つの言葉を部下に言えない人がいた。仕事に厳しい人だった。自分にも厳しく尊敬できる上司だったが、二つの言葉を極度に苦手としていた。「ありがとう」と言うべき場面では「おぉ」と言って頷くか、「良かったな」で逃げる。それでも一年に何回かは「ありがとう」というニュアンスの言葉をかけられることがあり、言われると何だか妙に感動してしまったのを覚えている。

しかし問題は「ごめんなさい」の方である。勿論部下に「ごめんなさい」とは言わないので、「ごめん、悪かった、すまない、すまん、申し訳ない」などの言葉になるのだろうが、そのどれも決して発しはしない。

こんなことがあった。この上司の判断ミスでお客様とトラブルとなり、それがどんどん大きくなって本社にまで聞こえるような問題に発展した。私は必死の思いでお客様に謝罪し、あの手この手で挽回策を講じ、ギリギリのところで修復をした。私は少し怒っていた。自分のミスではなく上司のミスの後始末に動き回ってへとへとになっていたからである。
 で、解決できたことをこの上司に報告した。少し言い方や態度が悪かったかもしれない。すると上司は申し訳なさそうな顔をしながらも威厳は失わずこう言ったのだ。
 「福田君、今回のことは借りにするから水に流してくれ」
文脈から想像するに言いたいことは、「今回のことは自分のミスなので君に苦労をかけて申し訳ない。今後君に便宜を図るようにするから何とか怒らないで欲しい」ということなのであろう。申し訳ないと思っているのだ。しかし謝罪はできない。そこで本人の最大の謝罪の気持ちからこのような表現となったのだろうと思う。信頼関係があったから別に何とも思わなかったが、内心(この人ホントに、ごめん、って言わないんだな)と思った。

Tさんと元上司はそれぞれ極端な例だが、それでもコミュニケーションを考える上でこの「魔法の言葉問題」は常に考えさせられるテーマである。

同僚のHさんが飲み屋でしみじみ言っていた言葉が忘れられない。
 「ありがとうとごめんなさいか・・・。うちの犬には言えるんだけど、女房には何故か言えないんだよな・・・」



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