2017年1月5日木曜日

花のさくら通り/荻原浩:ネタバレなしのブックレビュー!/サラリーマンブックガイド


 最近「本大好き芸人」というのが流行りだそうである。又吉さん、若林さん、光浦さん、カズレーザーさんなどがTVで取り上げた本が一番売れるらしい。確かにそんなPOPも書店でよく見かけるようになった。
 しかし本のセールスは厳しい状況が続いているという。やはりスマホの影響は極めて大きいのだろう。電車で本を読んでいる人の数は本当に減った。スマホでメールやLINE、ネットサーフィンやゲームをやっている人がほとんどである。電子書籍や漫画をモバイル端末で読んでいる人も時折見かけるが、紙の本や雑誌を読んでいる人が1車両に私一人しかいないことに気づき愕然としたりする(+o+)
 それでも私は本が大好きだ。私は芸人ではないが(時々売れない芸人みたいだと思うことはある(^^;))本大好きオヤジだ。
 本にはゲームや映画では味わえない個人個人の感性での受け止め方の差や、自分でイメージを膨らます楽しさがある。同じ本を読んでも人それぞれに感情の揺らぎがあり、きっとそれは映像よりも個人差が大きいのだと思う。そこが本の魅力の一つだと感じている。
 人が見るのは「字」だけだ。それなのに映像が頭に浮かび、主人公の思考が頭に流れ込み、心が同化し苦悩して呻吟したり、喜びが沸き上がり思わず笑ったりする。何とすごいエンターテインメントであろうか(^o^)

 そんな素晴らしい本の世界の中で、年頭に当たり私が渾身の想いを込めてご紹介したいのは荻原浩さんの「花のさくら通り」である。地味な作品だが、私の感性にぴったりフィットした良作だ。

花のさくら通り (集英社文庫)
荻原 浩
集英社 (2015-09-18)
売り上げランキング: 73,998

 私は荻原氏のファンと言って良いと思う。ほぼ全作品を読んでいる。
 同氏が1997年にすばる文学新人賞を受賞しでデビューした際は、「オロロ畑でつかまえて」という広告業界を軽妙に描いた一般小説だった。その後3作目に書いたのが「ハードボイルドエッグ」というミステリーであえる。この作品が日本のミステリー、特にハードボイルド作品を偏愛している私の「ミステリーアンテナ」に引っかかったのである。
 何せ文章が上手い。ストーリーもさることながら、作風が独特で哀愁があり読後感が爽やかである。この作品をきっかけに私は荻原氏を追いかけるようになった。
 私はてっきりこの人はミステリー作家なのだと思っていたのだが、それ以降ミステリーも書くことは書いたが、一般小説で脚光を浴びるようになって行った。
 最も有名な作品は、渡辺謙さん主演で映画がヒットした「明日の記憶」だろうか。若年性アルツハイマーを取り上げた作品だが、この救いようもない暗く厳しいテーマに正面から向き合いながらも、淡々と優しい筆致で丁寧に描いているので、悲壮感はさほど感じない。切なさが静かに胸に迫る名作である。

 しかし私は、荻原作品の真骨頂は「ユニバーサル広告社シリーズ」にあるのではないかと考えている。デビュー作である「オロロ畑でつかまえて」は、自身が身を置いていた広告業界がテーマである。続編の「なかよし小鳩組」はヤクザに仕事を貰ってしまう広告代理店のユーモア溢れるストーリーだ。そしてシリーズ三作目がこの「花のさくら通り」(2012年6月 集英社 / 2015年9月 集英社文庫)である。
 本書はシリーズ前作「なかよし小鳩組」が1998年に刊行されているので、何と14年の歳月を経て書かれた作品である。デビュー当時の熱や若さや気合いが、円熟の時代にどのように昇華されたのかを読み比べる価値もあるのだと思う。

 あらすじはこんな感じだ。
 弱小零細で倒産寸前のユニバーサル広告社が、シャッター街間近の寂れた「さくら商店街」の和菓子屋の2階に引っ越して来る。主人公はバツイチのコピーライター杉山。商店街のポスター制作を引き受けただけのはずだったが、いつの間にか心に火が付き、商店街の再生プロジェクト的な仕事に発展して行く。様々な障害を乗り越え、果たしてプレゼンは成功するのか。プロジェクトは進んで行くのか?!

 ってなことなのだが、実はそんなにドラマチックでも奇想天外でも感動巨編でもない。軽いリアルで普通の話なのである。驚愕のどんでん返しもなければ、そんなに大事件も発生しない。それでもこの作品は胸に来る。主人公の葛藤や苦悩は誰もが抱えるものだ。それを一緒に支えてくれるのは、事務の猪熊、アートディレクターの村崎という、変わり者だが仕事の出来る二人の後輩社員である。この配役の妙がとても生きている。社長の石井も味がある。商店街の店主たちなども本当に実在しそうな、頑固者だったり、過去のやり方から脱却出来ない普通の人々だったりする。そんな人達を説得し新たな企画を通すのは簡単なことではない。しかし思いがありアイデアがあり行動力があれば道は必ず拓ける・・・。
 結局私は自分に投影して読んでいたのだと思う。頑張れ頑張れ!そこでもうひと押し!などと応援する気持ちにさせられていたのだと思う。

 荻原作品に共通し、私を虜にするのは読後感である。どの作品も読後感が爽やかだったり、静かな哀愁があったりして、ほーっと息をして空を見上げてしまうような作品が多いのだ。思わず、ふっと笑ってしまっている自分に気づいたりすることもある。

 私は様々な本を読むが、基本的には救いのない作品はイヤだ。どろどろのぐちゃぐちゃで、もう何処にも行けないようなどん詰まり的な話も結構多く、それはそれで人気もあるのだが、ともかく読んだ後に、元気が出たり勇気が湧いたり、明日も頑張ろっかなと素直に思えるような話が好きなのである。
 そしてこの「花のさくら通り」は荻原作品の中でも私の感性にぴったりハマった人情もの熱血サラリーマン小説と言えるのである(^o^)

 荻原氏は第155回の直木賞を昨年受賞した。「海の見える理髪店」という作品である。何度もノミネートされていたので、ようやくという感じもあるが、大変嬉しいことだ。様々なテーマで作品を量産する作者であるが、クオリティは常に高い。ここに作者の志の高さと卓越した筆力が表れている。
 是非一度お読みいただきたい。
 荻原作品が未読の方は幸運である。今年は豊かな読書が出来ることを、本大好きオヤジがお約束することにしたい。
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