2016年11月2日水曜日

白髪染め/咆哮のオピニオン編その9

<作画:みやかね・にわとり>

白髪染め
~1回染めたら定年まで染め続けろ!~ 

 私は若白髪であった。ストレスの多い営業職だったからかどうかは知らないが、30代で結構ごま塩っぽくなった。このまま行けば40代で真っ白になるかもしれない、と恐怖を感じ30代半ばで白髪染めをしてみた。
 最初は家で染めていた。男性用のヘアカラーを買い求め、専用ブラシに歯磨きみたいに絞り出し万遍なく梳かしたら、しばらく時間を置いて洗い流すのである。実に簡単で効果的だ。しかし難点もある。汚れるのである。ヘアカラーは落ちにくいのだ"(-""-)"
 確かにすぐ落ちるようでは髪もすぐに白くなる。しかし何かにくっつくと洗っても洗っても落ちないのだ。
 特に困るのが風呂場だ。浴槽などに付着するとなかなか取れず難儀をするのである。銭湯やスポーツクラブなどに白髪染め禁止の貼り紙がよくあるが、さもありなんである。

 家で染めていたころの失敗はTシャツを脱ぐのを忘れて染めてしまったことである。洗い流すには風呂に入る必要があり、風呂に入るには当然Tシャツを脱がなくてはならない。染めた状態で脱ぐと白髪染めが付着するので、Tシャツがおしゃかになるのである。気づいた時には愕然とした( ゚Д゚)好きな柄だったでしばらく立ち直れなかった😞ともかく染める時は前空きの服を着なくてはならないのだ。
 そんなこんなで家で染めるのは断念し床屋で染めてもらうことにした。月に一回程度髪を切るついでに染めてもらうのである。もう20年以上染め続けていることになる。

 床屋と言えば30代半ばで初めて関西に転勤した際にカルチャーショックを受けたことがある。未だ自宅染めをしていた頃だ。
 それは「頭を洗いますか?」と訊かれたことである。
 それまで床屋で一度たりとも頭を洗わなかったことなどはない。床屋で頭を洗うのは当然のことだ。何を言っているのかと不思議であった。
「はい、洗います」と憮然としながらも答えたのだが、料金表を見ると300円安くなっているのだった。
(何だ300円かよ。そんなもん洗うに決まってるだろ)と思った。
 ところがである。行けば毎回訊かれるのだ。毎回訊かれると信念は揺らぐものである。しかも注意していると、周りの客は洗っていない方が多いのだ。確かに家に帰ってさっと洗えば300円得である。
 1回は300円でも年に15回くらいは行くから4,500円である。10年で45,000円、20年なら90,000円、死ぬまで行くとして35歳から80歳なら45年×15回×300円で202,500円である。私は貧乏性だ。更にすぐに何でも生涯金額に換算する癖がある(=_=)
 それでもしばらく我慢して洗ってもらっていたのだが、4回目位で遂に自我が崩壊し「洗わなくていいです・・・」と言ってしまったのである。しかしその帰り道、何か長年の呪縛から開放されたような爽やかな気分になったものである。自分の英断が20,2500円を生み出した、というような達成感だったかもしれない。
 ところがである。ほどなく私は前述の理由により自宅染めを断念せざるを得なくなった。床屋染めは結構高い。1回につき+2,000円くらいだし、染めたら当然床屋で絶対洗わなくてはならない。結局20,2500円のプラスの予定が、45年×15回×2,000円で1,350,000円のマイナスとなってしまったのである。行って来いで1,552,500円の利益を失ったのだ。しかし、どうすることも出来ない必要経費である。

 生涯で155万円損するかどうかは別として、そんなわけで私は20年間に亘り床屋で白髪染めを続ける言わば床屋染めのベテランである。そしてこの10年ほどは同じ店で染めている。そんなベテランの私が先日突然窮地に陥った。

 染めてから時間待ちをして、洗おうと頭に巻いてあったタオルを外した時イヤな予感がした。何となく色が違うのだ。いつもなら黒く光っている髪が何故か赤っぽいのである。
 あれれれれ?!と思ったが、とりあえず洗ってもらった。そして乾かしてみると、何と紫っぽい出来上がりなのだ。関西のおばちゃんや巣鴨方面に行くと時折出くわす高齢の女性のようにパープル系なのである。私は60年生きて来たが、パープルのおやじには会ったことがないし、ましてやパープルのサラリーマンは異様である。
「これどうしたんですか?何でパープル?」とお店の人に訊いたら"(-""-)"お店の人もしどろもどろで、あー、とか、うーとか唸るばかりであった。
「これって時間が経つと黒くなるんですか?」
と念のために訊いてみたが、「いや、多分赤くなると思います」との答え。
 赤毛のサラリーマンか。赤毛のあんちゃん、というギャグがあったが、赤毛のおじさんではしゃれにならん(=_=)
「どうしますか?」
「染め直すに決まってるでしょ!」
それからまた30分。もう一度黒く染め直し私は店を出たのであった。頭が猛烈に痒い。一回染めでも痒いのに、二回染めでは頭皮も悲鳴をあげるはずである。

 しかしもう中途半端に止めるわけにはいかない。止めれば白くなる途中がめちゃめちゃ茶色く汚くなるのである。
 私は頭を掻きまくりながらとぼとぼと駅までの道を歩いた。そして、あー、染めるんじゃなかったぁ!と20年も前に染め始めたことを悔やんだ。あー、155万損したぁ!と尚も悔やんだ。
 11月の晩秋の風がびゅうと吹き、私の黒い髪をバサつかせて通り過ぎた。



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