~どんどんハマる!有能だが不運過ぎる女探偵葉村晶!~
先日「静かな炎天」という作品を読んでレビューした。
「有能だが不運過ぎる女探偵葉村晶シリーズ」の新刊である。
同作品では41歳となっていた葉村晶。ハードボイルドの王道的に基本を押さえたシニカルな味を出しつつも、何故か全然人物像のイメージが湧かないこの類稀なる主人公。この何だか不思議な作品がだんだん気になって来て、逆廻しながら読んでみようと書店に赴いてこの本を買ってみたのだった。
「有能だが不運過ぎる女探偵葉村晶シリーズ」の新刊である。
同作品では41歳となっていた葉村晶。ハードボイルドの王道的に基本を押さえたシニカルな味を出しつつも、何故か全然人物像のイメージが湧かないこの類稀なる主人公。この何だか不思議な作品がだんだん気になって来て、逆廻しながら読んでみようと書店に赴いてこの本を買ってみたのだった。
17年前と言えば私は40代半ばか・・・。
現役バリバリで一番頑張っていた頃だが、一番痛い目に遭っていた頃でもある(-_-;)
あの時代に書かれた作品を逆廻しで今読むこととなったのも何かの縁なのだなぁ。
現役バリバリで一番頑張っていた頃だが、一番痛い目に遭っていた頃でもある(-_-;)
あの時代に書かれた作品を逆廻しで今読むこととなったのも何かの縁なのだなぁ。
樋口有介、矢作俊彦、大沢在昌、東直己、香納諒一などを偏愛している。
ハードボイルドの主人公はだいたい男で探偵である。チャンドラーが描いたフィリップ・マーロウのように、みんなシニカルなセリフを言う。
ものすごいピンチで、もう絶対に殺されるしかない、という場面においても、「そのナイフの刃を俺に向けるってことは、自分に向いてるってことでもあるんだぜ」とか何とか、余裕をぶっこいた感じのことを言うのである。
私ならまずそんなことは言えない。うううううう、や、止めてぇ、と呻くのが精一杯だろう。ハードボイルドの主人公はだいたい男で探偵である。チャンドラーが描いたフィリップ・マーロウのように、みんなシニカルなセリフを言う。
ものすごいピンチで、もう絶対に殺されるしかない、という場面においても、「そのナイフの刃を俺に向けるってことは、自分に向いてるってことでもあるんだぜ」とか何とか、余裕をぶっこいた感じのことを言うのである。
そして必ずその絶体絶命のピンチを脱するのである。まぁ小説なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、すっかり感情移入して手に汗握って読んでる私からすれば、ものすごくカッコイイのである。
だがこの主人公葉村晶は違う。そんなカッコイイ現実離れしたセリフを吐くわけでもない。ものすごく優秀だが、無駄口はそんなに叩かないのだ。そして他のハードボイルド作品のように激しいアクションシーンもない。
主人公の41歳時代を先に読み、時を遡って29歳時代を読んでみたが、トーンは均一だ。20代だからといって若々しい訳でもない。優秀で頑張り屋で手を抜かず落ち着いてる風情になんら変わりはないのである。家族関係のことが大分理解出来て、主人公の心の中の闇にある程度迫ることは出来たものの、その人物像が明らかにイメージ出来るほどには入り込めないのである。
しかし、作者の文章の何と無駄がなくそして感情を抑えつつテンポが良いことか。乾いていながら軽妙で、淡白に見せて味がある。このような文章にはあまりお目にかかったことがないなぁと感心してしまう。
本連作短編集では9本の作品が楽しめる。友人や家族や仕事仲間が交錯し、全体的な主人公の人間関係を形成している。
パチンコばかりしているのだが、責任感が強く頼りになる上司長谷川探偵調査所の所長。ルームメイトである友人の相場みのり。同僚の探偵である村木。
それらの人物が何度も顔を出しながら、それでもそれぞれが一定の距離を置きつつつながっているところに作者の技巧性が発揮されていると感じる。
特に最初に収録されている「濃紺の悪魔」が最後の「都合のいい地獄」につながっているところが、まぁちょっとなかなか出来ない芸当なのだろうなぁ。
ラブロマンスは全くなく、本当に色気も何もない作品なのだが、それでも主人公はとても魅力的だ。
その魅力の一つは闇を抱えていながらも逃げることなくそれに向き合い、そして生きていくことで戦っていることにあるのではないか。
粘り強く根性があり極めて優秀で責任感が強く、しかし不運な女探偵。そして彼女の明日や未来は全く見通すことが出来ないのである。その魅力の一つは闇を抱えていながらも逃げることなくそれに向き合い、そして生きていくことで戦っていることにあるのではないか。
作者のインタビュー記事を拝読する機会に恵まれた。
編集者から主人公のロマンスを書いて欲しいと言われ考えてみたそうである。何度もチャレンジしたのだが書くことは出来なかったんだって。
作者のコメントは、「この人にそういう神経ないんじゃない?」ってなもんだ。
自分で書くんだからどうにでもなりそうに思うがそうではないのだろう。結局小説の登場人物は自立して行くのである。実際に存在しているかのように、自分で考え行動するリアリティを有するのだ。作者はそれを書き留めているに過ぎない。きっとそれが小説の正しい書き方なのではないか。
そうだ。きっと葉村晶はロマンスには無縁な性格なのだ。
さて、41歳になった彼女はこの先どこへ向かうのか。平和や幸福が訪れる日が来るのか。
このシリーズは読者に問いかけるのだ。明日はどこにあるのかと。
私は祈る。この不運な女探偵の幸福と安住を。また次を読みたくなるな。困ったことになったな、これは・・・。
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